遠くへ行くなら、みんなで行こう。吉岡温泉「湯上がりサロン」で聞いた、タンザニアの暮らし

遠く離れたタンザニアの話を聞いていたはずなのに、
いつの間にか、吉岡温泉のことや、今の日本の暮らし、
そして自分自身の幸せについて考えていました。

2026年7月25日、吉岡温泉一の湯で開かれた「湯上がりサロン」に参加してきました。

今回のテーマは、「本当の幸せって何だろう?——タンザニアで感じたこと」です。

お話しくださったのは、JICA海外協力隊としてタンザニアで活動した、
鳥取大学地域学部地域学科講師の角正美先生と、
長年高校野球の指導に携わり、定年後にタンザニアで野球指導を行った岩崎広貴さんです。

MCは、鳥取大学地域学部地域創造コース2年の大形快生さん。
コーディネーターは、鳥取大学准教授の木村卓三郎先生が務められました。
会場には、JICAの地域連携アドバイザーを務める佐藤公平さんをはじめ、
鳥取大学の学生や大学院生、吉岡温泉のまちづくりに関わる方々など、
世代も立場も異なる人たちが集まりました。

私は前日にこの会のことを教えていただき、
「これはぜひ聞きたい」と滞在を一泊延ばして参加しました。

まずは同じテーブルを囲むところから

サロンの前には、皆さんと一緒に昼食をいただきました。

実際の昼食写真をもとにイラスト化。
おいしい食事を囲むと、初対面同士でも自然と会話がほどけていきます。

一人ずつ自己紹介をしていくうちに、
話題は高校野球、国際協力、農業、教育、吉岡温泉のまちづくりへと、
どんどん広がっていきました。

佐藤さんは、長年JICAの仕事に携わり、
現在は山陰の自治体や大学と国際協力をつなぐ役割を担っておられます。
これからJICAで働く予定の大学院生、吉岡温泉で学びながら働く学生、
地域の伝統を未来へ残そうとする人も同じ卓を囲んでいました。

吉岡温泉での傘踊りの復活や、残っている傘の修繕、
次の作り手をどう育てるかという話も印象に残りました。
海外の地域づくりと、吉岡温泉のまちづくり。
一見別の話のようでいて、
「地域の人と一緒に考え、次の世代へつなぐ」という点では、深く重なっています。

このあと角先生のお話を聞き、食事の時間そのものが、
角先生の活動の原点とつながっていたことに気づきました。

「何をしてあげるか」より、まず村を知る

角先生は大阪府職員を辞め、
JICA海外協力隊の「コミュニティ開発」という職種で、2017年から2年間タンザニアへ。
現地の行政機関に所属し、地域の人たちと一緒に暮らしをより良くする活動に取り組まれました。

最初から「これをします」という答えがあったわけではありません。

日本人がほとんど来たことのない村で、角先生が最初にしたのは、
一緒にご飯を食べ、村を歩き、人の話を聞くことでした。
最初の半年ほどをかけて村に溶け込み、
「この地域には何があるのか」
「みんなは何に困り、何をしたいと思っているのか」
を知るところから始めたそうです。

その後、少人数の住民グループと一緒に、
少額のお金を出し合って助け合う仕組みづくり、
土地に合うジャガイモの品種を探す試み、染め物や養鶏、
編み物を通じた女性や若者の仕事づくり、
家計管理のワークショップなど、さまざまな活動を進めていきました。

特に心に残ったのが、遠くから歩いて通学する子どもたちのための寮づくりです。

資金がないからと諦めるのではなく、
角先生が利用できる制度を学校の先生に伝えると、
その先生が熱意を持って申請書を作り始めました。
二度不採択になっても挑戦を続け、三度目に採択されたそうです。

角先生が一方的に何かを与えたのではなく、
地域の人の「実現したい」という思いが主役になったからこそ、生まれた成果でした。

写真から見えた、私たちの知らないタンザニア

「タンザニアの写真はどれでしょう?」。答えは、なんと4枚すべてでした。

角先生の発表は、写真を使ったクイズから始まりました。

にぎやかな都市、透き通る海、動物が暮らすサバンナ、生活感あふれる市場。
私たちが「アフリカ」と聞いて思い浮かべる一つのイメージには収まらない、
多彩な風景がそこにありました。

タンザニアには多くの民族が暮らし、それぞれの言葉や文化を持ちながら、
スワヒリ語を共通語として人々がつながっています。
違いをなくすのではなく、違いを持ったまま一緒に暮らす。
その姿もまた、タンザニアから学べることの一つでした。

「ポレポレ」——ゆっくりこそが、本当の歩み

角先生が最後に紹介してくださった、
タンザニアの暮らしを表す言葉があります。

① ゆっくりこそが、本当の歩み

Haraka haraka haina baraka.
Pole pole ndiyo mwendo.

急ぐことは幸運をもたらさない。
ゆっくりこそが、本当の歩み。

「ポレポレ」は、スワヒリ語で「ゆっくり、ゆっくり」という意味です。

時間どおりに進むことを当たり前にしてきた角先生は、
当初、タンザニアの時間感覚に戸惑ったそうです。
しかし、待っている時間に人と話し、
そこから新しい関係や次の活動が生まれていく。
ゆっくり過ごす時間は、決して無駄ではなく、
とても豊かな時間だったと振り返られました。

ほかにも、三つの言葉が紹介されました。

② 人と人は出会う

Milima haikutani,
lakini binadamu hukutana.

山と山は出会わないが、
人と人は出会う。

③ 私たちは共にいる

Tuko pamoja.

私たちは共にいるよ。

④ 遠くへ行くなら、みんなで行け

早く行きたければ一人で行け。
遠くへ行きたければ、みんなで行け。

一人の速さよりも、
みんなで歩み続ける力を伝える言葉です。

行政の人手も予算も十分ではなく、課題はたくさんあります。
それでも住民が話し合いに参加し、自分たちで手を動かし、
一緒に地域を良くしていく。
その姿を見た経験が、角先生を大学院へ、
そして今の鳥取へとつないだそうです。

野球を伝えに行き、「幸せとは何か」を持ち帰った岩崎広貴さん

続いてお話しくださった岩崎広貴さんは、
長年、高校教師として野球部の指導に携わってこられました。
定年後、JICA海外協力隊としてタンザニアへ渡り、
ナショナルチームや子どもたちへの
野球指導、現地指導者の育成、野球の普及に取り組まれました。

道具も場所も十分ではない環境からのスタート。
それでも各地を回って子どもたちに野球を伝え、選手を育て、
教え子が次の指導者になっていく流れをつくっていきました。

岩崎さんは、タンザニアの高校生について、
肌の色が違うだけで、日本の高校生と変わらないと話されました。
やんちゃで、よくからかってきて、でもとてもかわいい。
長く高校生と向き合ってきた岩崎さんだからこそ、国や言葉を越えて、
目の前の生徒を同じ一人の若者として見ておられたのだと思います。

そして、活動を通して何度も考えたのが、「幸せとは何だろう」という問いでした。

日本に比べれば、交通も物も決して便利ではない。
暮らしには厳しさがあり、変えていかなければならない課題もある。
それでも、地方へ行くほど人々が楽しそうに暮らし、子どもを地域みんなで見守り、
大変な仕事の中にも楽しさを見つけているように見えたといいます。

現状を打破する努力も必要です。
でも、今ある状況の中で、どう幸せに暮らすかを考えることも大切なんだと思います。

「もっと上へ」「今より良く」と生徒を励まし続けてきた教師人生を振り返りながら、
現在も教壇に立ち、この問いを考え続けているという岩崎さんの言葉には、
静かな重みがありました。

手仕事に触れると、暮らしがぐっと近くなる

会場では、お話を聞くだけでなく、
タンザニアの布やかご、絵にも実際に触れさせていただきました。

布には、身に着ける人の思いや人へのメッセージが込められることもあるそうです。
目で見て、手で触れ、背景にある話を聞くことで、
「タンザニア」という国名が、
そこで暮らす一人ひとりの顔や営みへと変わっていきました。

タンザニアの話は、吉岡温泉の未来にもつながっていた

この日の話を通して、私が強く感じたのは、
国際協力は決して遠い国だけの特別な話ではないということです。

角先生が村の人と食事をし、話を聞き、一緒に方法を考えたこと。
岩崎広貴さんが野球を通して子どもや指導者と向き合ったこと。
佐藤さんが地域と大学、
そして国際協力をつなごうとしていること。そして吉岡温泉で、
住民や学生たちが伝統やまちの未来を考えていること。

場所も課題も違いますが、どれも「外から答えを持ってくる」のではなく、
そこにいる人と同じ目線に立ち、一緒に次の一歩を探す営みです。

サロンの前に一つのテーブルを囲み、午後には会場のみんなで質問を交わし、
最後にはタンザニアの品々を手に取る。
そんな一日の流れそのものが、「Tuko pamoja——私たちは共にいる」
という言葉を表しているようでした。

便利さや速さだけでは測れない豊かさとは何か。

地域の文化を、誰と、どう次の世代へつないでいくのか。

そして、自分は誰と一緒に、どこまで歩いていきたいのか。

答えを教わったというより、
これからも考え続けたい大切な問いをいただいた「湯上がりサロン」でした。

角正美先生、岩崎広貴さん、大形快生さん、木村卓三郎先生、佐藤公平さん、
そしてご一緒くださった皆さま、本当にありがとうございました。


開催概要

  • 日時:2026年7月25日(土)14時から
  • 会場:吉岡温泉一の湯
  • 主な登壇者:
    角正美先生(鳥取大学地域学部地域学科講師/JICA海外協力隊経験者・タンザニア)
    岩崎広貴さん(元高校野球部監督/JICA海外協力隊経験者・タンザニアで野球指導)
  • MC:大形快生さん(鳥取大学地域学部地域創造コース2年)
  • コーディネーター:木村卓三郎先生(鳥取大学准教授)
  • 参加者:佐藤公平さん(JICA地域連携アドバイザー)、鳥取大学の学生・大学院生、吉岡温泉の地域関係者ほか

この記事を書いた人

まみ助

「読む人を物語の世界に引き込み、感情を体感させる」ことを信条とするストーリーテリングが強みの編集ライター。関わった書籍は商業出版では60冊以上、自費出版では70冊以上。人物の本質に迫るインタビューには定評があり、「文章だけで描く似顔絵師」の異名を取る。すべての登場人物のペルソナを丁寧に作り上げてから物語を紡ぐため、作品には高いリアリティを誇る。「無理のない範囲で、自分のできることをする」「常識を打ち破れ!」をモットーに、信頼関係だけで繋がるチームメンバーと一緒に活動中。

記事一覧をみる